[遺伝子治療]

遺伝子からタンパクが作られる仕組み

遺伝子はスイッチによって制御されている

一般の遺伝子治療は、間違ったものに上書きする方法

私たちの体は全部で2万ある遺伝子によってコードされています。一方で細胞は神経の細胞やら肝臓の細胞など異なる200種類ぐらいの細胞があります。たった一つの受精卵から始まり、全ての細胞が同じ遺伝子コードをもっているのに、このような異なる形態や機能をもった細胞になるのは、この2万の遺伝子がどの細胞ではONになっているべきで、どの細胞ではOFFになっているべきかに従って厳密にスイッチがコントロールされているからです。
肝臓の細胞では肝臓に特徴的な遺伝子が、眼の細胞では眼に特徴的な遺伝子が翻訳されてタンパク質がつくられます。逆に他の細胞に特徴的な遺伝子はOFFに制御され、タンパク質は作られません。例えば、インスリンという血中の糖をコントロールするタンパク質は、膵臓のベータ細胞と呼ばれる細胞だけで作られていますが、これはベータ細胞だけでインスリンのスイッチがオンになっており、他の細胞ではOFFになるようにコントロールされているからです。

遺伝性疾患の3つの類型

コードの異常とスイッチの異常で病気は発生する

本来あるべき状態 必要なタンパクが必要な場所・時に必要な量が作られるように遺伝子を読み取ってタンパク質として書き出すスイッチが厳密に制御されている 異常な状態 A 遺伝子のコード部分の間違いで異常型のタンパクができる 異常な状態 B ONになるべき時にOFFになっていて、必要なタンパクが十分料作られていない 異常な状態C スイッチの異常によって、必要では無いタンパク、あるいは必要ではないタイミングでタンパクが書き出されてしまっている

こうした厳密に制御されている遺伝子が破綻すると遺伝子疾患になります。
1つの類型はタンパク質として翻訳されるコード領域にエラーが入り、機能不全あるいは異常機能を持ったタンパク質が作られてしまうものです(A)。もう一つはスイッチが誤ってOFFに制御されてしまうことにより、必要なタンパクが作られなくなってしまうことによる疾患です(B)。さらにはスイッチが誤ってONになることで、不要なあるいは必要以上にタンパクが作られてしまうことによって起こる疾患です(C)。

一般的な遺伝子治療

異常型配列を持ったDNAに対して、正常型配列を持ったDNAを追加する

2つの送達方法 1.Ex vivo:血液細胞の採取->ベクターで遺伝子挿入->修復した「細胞」を患者さんの体内へ 2.In vivo:正常な遺伝子->正しいコードのDNAを載せた「ベクター」を投与 細胞内の遺伝子にエラー

一般的な遺伝子治療は、遺伝子疾患のうち、機能が「足りない」疾患にアプローチできます。
すなわち、「足りない」遺伝子を外から足してあげることで、機能を補います。

遺伝子治療における導入方法

体外あるいは体内においてウイルスベクターを介し細胞に正しい遺伝子を届ける

2つの送達方法 1.Ex vivo:血液細胞の採取->ベクターで遺伝子挿入->修復した「細胞」を患者さんの体内へ 2.In vivo:正常な遺伝子->正しいコードのDNAを載せた「ベクター」を投与 細胞内の遺伝子にエラー

正しい遺伝子を送り込むのにはウイルスベクターを用いるのが主流です。ウイルスはインフルエンザに代表されるように、ヒトの細胞に非常に強い感染力を有するものが有ります。この感染力というのは、すなわちウイルスの遺伝子を細胞の中に導入する効率の高さによるものです。このウイルスの感染力だけを利用して、目的の遺伝子を細胞に送り込むことができます。

これには2つの方法があります。
1つ目は、Exvivo(体外)法と呼ばれるもので、骨髄細胞などに遺伝子を送り込む際に、体の外に目的の細胞を取り出して、そこにウイルスベクターで遺伝子を導入し、導入された細胞を再び体の中に戻すものです。
2つ目は、Invivo(体内)法と呼ばれるもので、神経や筋肉などの細胞は体の外に取り出すことができませんので、送り届けたい遺伝子をウイルスベクターのなかに封入し、ウィルスベクターを注射などの方法によって直接体に投与し、それらが到達した先の細胞で目的の遺伝子を細胞に届けます。